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Diagonal House
Nov. 2022
都内の建て込んだ住宅地に計画された、夫と子供のための住宅である。複数の用途地域が入り混じった斜線制限の複雑な地域のため、必然的に周辺には、斜めの屋根やかたちが好き勝手に林立したような風景がつくられていた。
周囲との視線の交錯には配慮が必要となる一方、建主は料理が好きでキッチンの利用が多く、そこからリビングやテラスとの一体的な繋がりを望んだ。そこで、室内の連続的な繋がりを外の風景といかに結びつけることができるかが課題のひとつとなった。
建物全体は半地下から最上階までひと繋がりとなるスキップフロアの構成としたが、空間同士の繋がりをより感じられるように、斜線制限や眺望に配慮しながらスラブを斜めに折り上げたり、部分的にもち上げたりするなどの操作を行った。それによって、高い天井高や大きな開口ができる以外に、斜めの床は寝転がれる丘となり、スラブがもち上がった場所は寝床のためのアルコーブとなるなど、住宅にアクティビティが生まれ、繋がり方に変化をもたらす。
また、斜めのスラブの下にはそれに合わせた斜めのかたちの大きな階段状のソファを配置した。その隣のテラス1は壁を斜めにカットすることで斜め上の空が切り取られ、屋上のテラス2は周囲を見渡せるようにL字型にベンチを配置するなど、細長い敷地形状によって生活が一方向に規定されず、さまざまな方向に暮らしが広がりをもつことを意図した。それらのかたちが外壁やつくり付け家具へと定着し、周囲の多様な形態の風景と近似することで、住宅のどこにいても都市を感じられる空間を目指した。
たとえば、広場の大階段に人びとが腰かけ思い思いの時間を過ごしたり、柔らかい日差しが降り注ぐ橋の下で橋脚を背もたれにして座ったり、日常の公共との交わりには、時折言語化がしにくい心地よさを感じる。人は都市の喧騒の中でも、インフラや人工物の中にも快適性を見出すことができる。
住宅の各所にそのような都市のスケールをもち込み、さらにそれらの場所を連続的に繋ぎ、周辺の風景と視覚的に一体化させることは、住まい手の活動を活性化しつつも意識を外部へと導く手助けとなる。それは、住宅内での生活を都市の中を闊歩する時と同じ状態に近づけている行為でもあり、住宅を都市化しているともいえる。
都市がますます高密度化する一方、コミュニケーションが希薄になった時代だからこそ、これからの都市の住宅には、都市の中に存在する快適性を肯定し、都市への帰属意識をもつことが必要なのではないかと感じた。
■建築概要
所在地: 東京都渋谷区
設計: 伊庭野大輔+藤井亮介
用途: 専用住宅
敷地面積: 56.46m2
建築面積: 36.34m2
延床面積: 114.52m2
階数: 地上3階 地下1階
構造: RC造
工期: 2020年11月〜2022年11月
設計: 建築 伊庭野大輔+藤井亮介(藤井亮介建築研究所)
構造 平岩構造計画 担当/平岩良之、金澤亮磨
施工: 桃山建設 担当 加藤和治
写真: 関拓弥